インターネット広告事業を中心に成長を続けるセプテーニグループ。同社は新卒採用活動において、いちはやくソーシャルメディアの活用を開始し、ノウハウを積み重ねてきた。
同社の採用活動を率いる江崎修平氏に、セプテーニグループのソーシャルメディア活用戦略や具体的な施策、実際の効果など、その裏側についてお話を伺った。
採用活動を通してファンになってもらう
江崎氏:
ソーシャルメディアを活用し始めたのは2012年度の新卒採用活動からですが、その3年ほど前から「採用活動=ファン作り」にというふうに位置づけて、選考参加者とのエンゲージメントを強く意識した採用活動を行なっていました。
BtoBでビジネスをやっている会社なので、学生は就職活動を始めてインターネット広告業界に興味をもって初めて僕たちの会社のことを知ることが多いんですね。その後、面接などによる短時間のコミュニケーションでは自社理解を促せず、最終的に売上や知名度で序列をつけられて辞退されたりしてしまう。
これではいけないということで、いかに効率良く僕たちが求める人材に入社してもらえるか?を考えた時に、まずは選考参加者とのコミュニケーションを見直しました。
1次〜3次選考はグループワークだけの選考プロセス
具体的には、1次~3次の面接を全部やめ、会社理解を促すためのグループワークに切り替えたのが3年前です。そして、試行錯誤する中で、やはり我々の勝ちパターンは、採用活動を通じてファンになってもらい、そこから拡散させていくのが一番いいんじゃないかという話になったんですね。
じゃあ何ができるか?となったときに、ソーシャルメディアを使って選考参加者の声を可視化したり、社員とコミュニケーションできるようにして、それを選考に参加している学生の外側にいる学生にも見えるようにすることでブランディングしていこうというところから始まりました。
学生が選考内容の感想をソーシャルメディアでシェア
江崎氏:
基本的には、ファーストコンタクトでセプテーニグループを知ってもらうというより、選考が進んでいる学生を対象により理解を深める施策を行いました。
当社の選考では、1次選考では会社の環境、2次選考では会社の強みを伝え、3次選考で1次・2次で学習したことを使って考える課題を出します。それぞれの選考プロセスで感想やフィードバックを選考参加者に体験談的にFacebookに書き込んでもらいました。それによってセプテーニグループがどういう会社なのかを認知してもらおうと考えたんですね。
さらにTwitterで「ソーシャルリクルーター」というものを設けて、選考課題に関する質問をそこで受付け、現場の社員に答えてもらえる仕組みを作りました。グループワークにも社員が出て、質問を受けるようにもしていますが、それ以外の時間でもTwitterを使って質問できるという形ですね。
江崎氏:
ソーシャルメディアでコミュニケーションが活発になされることは目的にはしていませんでした。
ただ、選考に参加した学生から「すごく良かった」というフィードバックを得ていたので、「ぜひそれをFacebookやコミュニケーションボードに書き込んでほしい」というアナウンスはしていましたね。それで皆が書き始めると、選考を受けに来る学生もそれを見てくるので、どんどん感想が追加されていくという好循環が起こりました。
ソーシャルメディア上にセプテーニグループの情報が友達づてに拡散するという点で、事業内容や売上、利益などの情報ではなく、企業文化だったり、こんな社員の人たちがいるといった情報から学生にリーチできたことがよかったと思います。
成果もあったが、反省だらけの活用初年度
江崎氏:
正直、初年度はお試しというところがあったこともあり、抽象的な話になってしまうのですが、「選考を可視化した」ことにより、企業のブランディングという点で一定の成果があったと思います。
書き込みを見ることで、他の選考参加者のことを知ることができたり、興味をもって選考に参加した学生が多かったことは手応えを感じました。とくに内定に近い学生にとっては、同期になる可能性のある人が分かるというのが大きいことだったようですね。
ただ、初年度は成果よりも反省点だらけといったほうが正しく、例えばTwitterでソーシャルリクルーターをやっても、社員から「140文字では返せない」と言われてあまり機能しなかったといったこともありました。
また、Facebookページの使い方も感想を書いて終わりというものだったので、企業ブランディングという意味では一定の機能はしましたが、それ以上の成果は得られなかった。運用にかけたパワーに対して、きちんとした採用成果が出せなかったという点は反省しました。
採用選考そのものをメディア化する
江崎氏:
企画段階で採用選考自体をメディア化するということを意識したことですね。ソーシャルメディアを使って気づいたのは、ツールどうこうよりも、いかに学生がソーシャルメディアで発信したくなる採用活動ができるかが大事だということです。
つまり、選考参加者向けの情報提供や体験の質を上げるということが一番大切で、そしてそれを体験したときに、伝える手段としてソーシャルなツールをちゃんと置いておくということで、拡散が促進されるだろうということですね。
そこで、365日どこで語られても良いような採用活動を目指そうというコンセプトになりました。
コミュニケーションプラン
2013年新卒採用から、このようにコミュニケーションプランを提示することで、各選考で具体的にどういうことをするかを事前に見てもらえるようにしています。そして選考に関する質問があればTwitterに、エントリーするときはリクナビやFacebookからきてくださいといったように、どういう情報を提供するかをなるべく明確にし、各プラットフォームをどういう目的で使っているかを説明しています。
また、選考に参加した人に対して情報をきちんと提供すると同時に、選考過程で学生がソーシャルメディアに発信した情報も可視化させていくという宣言もしています。
これは採用選考だけではなくビジネスプランコンテストでも、同じような設計をしています。そこから全てあわせると1年間つながって、僕たちが会いたい人やその人の周辺にいる学生に口コミが増えていくというような仕組みを狙っています。これが2013年新卒で採用活動をメディア化するためにとった施策ですね。
ツールの目的を明確にすることで活性化させる
江崎氏:
もっとも機能したのはFacebookで質問に答えるソーシャルパネルディスカッションですね。
グループワーク中にも質問できる時間があるのですが、その時間だけではどうしても聞きたいことはすべて聞けない。じゃあこの後も聞きたい人はソーシャルパネルディスカッションを使ってくださいというアナウンスをしました。そうするとそこ経由で質問がどんどん来るようになりました。当社の選考の仕組み上、「セプテーニグループを理解すること=選考のミッション」になっていますから、彼らも問題解決のために積極的に質問してきました。
こういう仕組みも無目的にやるとかなり閑散としてしまいます。「みなさんご自由にどうぞ」だと絶対にやってくれません。誰に対して何を提供しているのかを明確に示す必要があります。そういう意味では、用意した各ツールの意図をはっきり案内しておいたことはよかったですね。
あと、選考参加者という点では、大体1,000名くらいでしたが、その約半数が、インターンシップに参加した学生やその友達、他にも去年の選考参加者や辞退者からの紹介、社員からの紹介だったという結果が出まして、これには手応えを感じました。
江崎氏:
僕たちも試行錯誤しながらやっているので、積極的に書き込んでいるから即ポジティブな採用評価をするということはありません。ただ、少なくともコミュニケーションツールとして普及はしているものなので、Web業界を受けるような学生であれば情報リテラシーとして普通に使いこなしてほしいとは考えています。
選考活動を通じたコミュニケーションでファンになってもらう
江崎氏:
FacebookやTwitterは、企業側からの情報提供という意味はあるのですが、単なる情報提供であれば普通の採用Webサイトでもできます。そうでなく、ソーシャルメディアを使う意義を考えると、選考に参加している学生であったり、人事ではない社員が参加するのがよいと改めて感じました。ただ、当社の場合でも、効果を実感できるのは3次選考参加者向けのソーシャルパネルディスカッションが主であって、選考参加前など、それ以外の学生に対しての効果的な活用方法は、まだ模索しているところです。
実はTwitterもかなり試行錯誤をしていまして、どういう情報を発信したらリツイートされるかなど、曜日ごとに変えて発信していた時期もありました。Q&A用のボックスを用意したりしたものの、まったくノーリアクションでした。企業アカウントとしての効果的な使い方を模索中です。
結局、大量マスの募集団をつくって、そこからファネル型にしぼりこんで内定をだすというプロセスの中に、無理やりソーシャルというツールだけ取ってつけたように入れても、ほとんど機能しないと思うんですね。そもそもの採用活動自体にソーシャル性を持たせることが大切だと考えています。
ちゃんと目の前にいる対象の人たちを大事にして、個と認識してコミュニケーションを取り、ファンになってもらおうというスタンスでやることが一番大事だということですね。そしてその場所にそっとソーシャルなツールを置いておくという感じではないでしょうか。
そうすれば、ちゃんと使って拡散してもらえる。無理やり促すのではなく、どちらかというと目の前にいる人の体験のクオリティをあげていくことに注力することのほうがすごく大切だと思います。
どうしたら学生にファンになってもらうか?まずはコミュニケーション設計から!
江崎氏:
ある程度、先行事例が出てきているので、今からソーシャルなツールを「とりあえず使ってみよう」というふうに無理する必要はないと思います。
「入ってもらいたい学生にいかにファンになってもらうか」という観点でコミュニケーション設計することを是非おすすめしたいですね。
結局、コミュニケーションをどうとっていくかを考えるのということが、最も重要命題だと思います。その観点でソーシャルなツールの使いどころがあれば使うべきですし、なければ使う必要はないでしょう。それが必要かどうかを、コミュニケーション設計をする中で判断してもらえればと思いますね。
また、未来を見れば、今後少子化によって人口は減っていきますから、採用も競争が激しくなっていきますよね。ここからは私たちもチャレンジ領域ですが、無作為に母集団を増やすことなく、求める人材を集め、そして見極められる力をつけること。これは今後の採用担当が向き合うべき一つの課題なのだと思います。ここにソーシャルの力を利用していくことができれば非常に面白いことができると思います。
ただ、「ソーシャルメディア使ってこんな面白いことやりました」ということが話題になることが大切ではなくて、話題にならなくても採用成果につながっていればいいという、あくまで本質からずれない使い方、考え方をしてもらえればと思います。
取材を終えて
採用活動でソーシャルメディアを活用するといえば、「いいね!がたくさん集まらないといけないのではないか?」「せっかく投稿しても、何の反応もなかったらどうしよう」といったような考えに陥りがちだ。
ソーシャルメディアを使うことありきで話が始まると、例えばFacebookになにかしら投稿しようということになり、Facebookページや、投稿にいいね!が付いたり何らかのリアクションがあることを期待する。そして、数多くのいいね!がついた人気企業のFacebookページを見て「自分の会社でも果たしてこんなふうになるのだろうか?」と不安を感じてしまうというのがよくあるパターンではないだろうか。
しかし、今回お話を伺ったセプテーニグループは、これについてまったく違ったアプローチをしていることがわかる。優秀な学生の獲得競争の中で、どうやって自分たちが採用したい人材に出会うか?そのために、自分たちのファンになってもらい、セプテーニグループのことを広めてもらおう。では広めてもらうにはどうしたらいいか?広めてもらえるような採用活動を行い、ファンになってもらえるようなコミュニケーション設計をしよう。そして、そのコミュニケーションが行われやすく、かつ外部の人にもオープンに見えるものとして、ソーシャルメディアを使おうという順番で考えられている。
多くの企業のソーシャルメディア活用が、まだまだ一方通行な情報の発信になりがちなのに対し(それでも情報の発信量という意味では、以前の採用Webしか持ちえなかった時代よりははるかな進歩である)、ソーシャルメディアの本質的な強みである、「コミュニケーション」と「バイラル」を実現したという点で、非常に興味深い事例といえるのではないだろうか。
▼セプテーニグループの採用情報はコチラ
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株式会社セプテーニ・ホールディングス 人事総務部 江崎 修平 氏 [facebook] http://www.facebook.com/ezaguri55 [twitter] https://twitter.com/ezaguri |